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波と文学

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春の到来を喜ぶ猿

起きたら連れてきて。と言い残して妻は二階のベッドに向かった。

ソファに座っている僕の横でセガレが眠っている、熟睡しているだけなのだが、あまりにも静かに寝ているものだから死んでいるのじゃないかと不安になり鼻の下に指を入れて呼吸を確認すること5分に1回。そのたびにホッとしている。

しかし、米や肉や魚や野菜を食うわけでなく、母親の乳だけを飲み、日ごとに大きくなっていくコイツは一体何なんだ、と不思議に思う。乳なんて色が違うだけで所詮母親の血液である。きっと明日も今日より少し大きくなるのだろう乳を吸い、ひょっとすると表情が増えるかもしれない乳を吸い、新しい感覚が芽生えるかもしれない乳を吸い、笑いのツボにも変化があるかもしれない乳を吸い。何なんだコイツは乳を吸い。




二時間が過ぎて午後11時、セガレ、泣き始める。腹が減ったと全身で表現している。日ごとに重くなるセガレを抱き上げて二階へ。妻を起こしてバトンタッチ、寝る。そして午前4時、泣きそうな、細い声の妻から起こされる。

「三吾が二時間延々に泣くと笑うを繰り返しており私はもう限界だ。鳩が飛んでいる。交代して欲しい」と言われる。「しかし、私も明日は鉄板の奴隷である。民衆のために焼かなければならないタコがある。午前4時である。鳩が飛んでいる。勘弁して欲しい」と告げるも妻は豆電球のしたで白目を剥き、口をパクパクさせているしその奥でセガレ、満面の笑みを浮かべて僕の方を見ている。ちっ。



そこから約一時間半、間抜けな声を出してセガレをあやし続け、なんとか小僧のスタミナを奪うことに成功する。トドメの乳をあげるために妻を起こして自分は寝ようと試みるも乳を飲んだセガレはなぜか元気百倍になりキャッキャっと春の到来を喜ぶ猿になっている。妻は片乳を出したまま寝ている、午前7時が過ぎている、外は明るくなっている。この世で一番朗らかな地獄である。結局眠れず、朦朧としたままセガレを抱き抱え海まで散歩。腕のなかでうー、あー、うー、あー、言っているセガレをささやかに呪いながら朝陽のなかを歩く僕らの未来がこのまま幸せであり続けますように。
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