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波と文学

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浜松日記04

分娩室に移動してから子供が産まれるまでの時間はもうはっきりと覚えていない。10分程度だった気もするし、1時間くらい掛かったかもしれない。延々と待たされた気もするし一瞬で終わった気もするが、一生忘れない瞬間に間違いはない。どのタイミングで、あのテレビで見たことのある濃い緑色の、医者が着てそうなアレを、僕も着させられるのかとドキドキしていたのだがそのような事態になることは一切なく、僕のことなんて誰も気にしていない様子でお産が始まったのには拍子抜けた。ひとの命が産まれてくるその時に、命懸けの妻と、それを支える医者と、その空間に一人だけ普段着で存在する自分が可笑しく思えた。

息子が誕生した瞬間、僕は意外と冷静だった。

得たいの知れない多幸感に覆われて僕はついに死んでしまうのでは、と楽しみにしていたものの、妻を見守り続けた僕の10カ月は息子の小さな産声と柔らかい光に包まれて、妻の涙に呆気なく流された。産まれたばかりの子供を胸元に抱いて、美しい涙を流している彼女の横顔を僕はたぶん一生忘れない。


結婚四年目で三人家族になった、


彼女と、僕と、三人目の「私」という意味を込めて、僕らは彼に【三吾】と名付けた。

僕はついに父親になってしまった。

これから先の困難や幸福を、人の親として味わい続けていくわけだが、今は当然、実感なんてない。だけど気付いてしまった、僕は、この子の父親になるために34年前に産まれたということを。
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